天然染料 (染材)

天然染料     ・・・いわゆる草木染ってやつだ。

“草木染” って名前は 山崎青樹さん という、学者・染色家?の方がつけた名前らしいんだ。
オレもその人の本で随分勉強させてもらったので、興味のある人は 山崎さんの資料を探してみてはいかが?

オレが天然染料を使ってるのは、弟子入りした頃に 師匠が草木染に興味を持ってて 勉強して
仕事に使い始めた頃だったので、オレは入った頃から 草木染をやってたので馴染んでるからなんだ。
・・・それに、やっと少し  がわかってきて やっぱ天然の色って “エグミ” が無くていいんだよね!
だから、オレは別に天然染料を “売り物” にしてるわけじゃないから 化学染料 も使うよ。

・・・前置きが長くなってしまった。   メ・ン・ゴ!

さて、オレの良く使う染料をご紹介。

 ログウッド
 ヘマチンと呼ばれる木の芯の方の材
 主に、 を染めるのに使う
 クロムで媒染してやると 濃い藍色(チョットくすんだ)になる
 藍 以外で唯一青系の色が出せる染料




 楊梅皮
 山桃の木の皮  渋木と呼ばれる
 宮本武蔵に出てくる吉岡憲法が染屋さんで黒を染めてて
 これを染重ね、黒にしてたらしい。
 オレは黄・緑系の色が欲しい時につかってる




 矢車附子
 榛の木の実に似た実? まつぼっくりのような感じ
 媒染材による色に違いが、他の染料に比べて無い
 オレは化学染料を薄める時に矢車で薄めてやる
 そうすると 化学染料のエグミ が少し落ち着く
 後、暖簾(綿)を染める時に良く使う
 


 蘇木
 蘇芳色(すおういろ)と呼ばれる朱系の染料
 アルミで媒染するとサーモンピンクの様な色になる
 これも木の芯の方の材
 日光堅牢度がやや弱いようなので コチニール
 化学染料でやや補ってやっている
 (オレはこれを煎じてる時のスーっとした香が好き)


 コチニール
 貝殻虫・臙脂虫とも呼ばれるサボテンに付く虫
 良くジメジメしたとこに居る丸くなる虫に似てる
 南米系のピンクっぽく わりと日光堅牢度強い
 昔はケチャップの色付けに使われてたそうだ
 だが、他の染料に比べ値段が高い!


↑これらが、オレの良く使う天然染料なんだ。 自然界には黄・茶になる染料はイッパイあるんだ。
そこら辺に生えてる草を煎じてやっても、だいたい黄~茶色にはなるんだ。 (染料の含有量は少ないけどね)
次に多いのが朱系の色 (蘇芳・コチニール・茜・紅花・・・) 黄系の色に比べると随分少ないけど・・・
青系は、藍・ヘマチン(やや無理やり)の2種類しかないんだ。 それに藍は他の染料と染め方が違って
浸し染でしか使えないので、オレらのやる引き染では使えないので実質1種類
・・・だから綺麗でビビッドな 青 は化学染料に頼らなければならないんだ。

後、オレは使う機会が少ないんだけど↓こんなのも使うよ。

 刈安
 多くの染料が漢方薬として輸入されてる中、少ない国産物  近江刈安
 オレは この ホッコリ した黄色も好きで使用頻度は少ないけど使う
 ススキのような葉の材


 鬱金
 今流行のウコン  生姜科の根っこの部分の材
 カレーの材料ターメリックとしても有名だよね
 ウコンの風呂敷と言って重宝がられたのは殺菌・防虫効果があるから。


大体 使ってるのはこんな感じ。 発色とか堅牢度とかで残ってきた染料なんだ。

あっ! それと綿のショール(薄手のヤツ)とかには 玉ねぎ の皮も使ったりするよ。
エジプト文明の頃から、玉ねぎの皮で染色してたらしい。 これは材料を家庭で集められるしね。
ハンカチとかショールとか薄手のものだったら、アルミ媒染で、綺麗な黄色になるし いいんじゃない?
・・・後、身近な材料と言えば ヨモギ なんかでやってる人も多いみたいだよね。

多くの天然染料は漢方薬として輸入され、その中の一部が染料として回されて来るんだ。
興味のある人は、染材料店に行けば入手できるから色々試してみてね。



さて材料を入手したら、そいつらを 煎じて 染料を作るんだけど
ほとんどの材は 30~40分煮込んで それを漉して、という作業を3~5回繰り返して染料にするんだ。

 → 

この時 煎じる鍋はホーロー引きのやつとか、陶磁器のやつがいいよ。 
鉄やアルミの金属鍋だと、煎じてる間に金属分が溶け出して 染料と反応してしまうからなんだ。
こうやって得た 染料 をしばらく置いておき、下に余分なものが沈殿するから
上澄みをすくって 幾分めの細かい生地で 漉して 使うんだ。
色を試してみて、薄いようなら もう少し煮詰めてやって 濃ければ水で薄めてやって・・・

藍は 建てる といって、他の染料とは まるで違う方法なので “藍染” をやりたい人は他で勉強して下さい。
その他の染料は、大体この方法で染料を抽出できるんでやってみて。

化学染料のような ピュア で バチッ としたのとは、また一味違う 天然の色 を楽しんでみてね。       

    HAVE SOME FUN !                      じゃ!



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2007年06月01日 Posted by 染師 麗 at 00:00天然染料

天然染料 (媒染)

チョット聞き慣れない言葉だと思うけど・・・
今回は  媒染  について。

一般の人が “草木染” と聞くと “草や木を煎じて その液で染めたもの”と思うんだろうけど
それだと、まだ半分の出来なんよ。  (勿論 間違いじゃないよ)
草木を煎じた液で染めてから 媒染 といって、金属分で 染料を 発色・定着 させてやるんだ。
  (勿論 金属といっても、水に溶けた金属だよ)

  
↑ 酢酸 アルミニュウム             ↑ 酢酸 クロム

  
↑ 酢酸 銅                     ↑ 木酢酸 鉄

この他に 黒 を染める時に 重クロム酸カリ というのを使うけど、ほとんどこれらでやってるよ。

これら 媒染材 は、例えば 釘を水の中に浸けて置くと 水の中に徐々に釘の鉄分が溶けていくんだけど
それではものすごくスピードがゆっくりなので、酸を入れて早く溶け出す様にしてやってるんだ。
その酸の種類で 硫酸アルミ だの 酢酸アルミ だのになって行くんだ。
オレは酢酸が一番生地へのダメージが無さそうなので、酢酸系を使ってるよ。 (勿論 買ってきてだけどね)


さて 媒染 って?て事なんだけど・・・
先にもチョット触れたように、大まかに二つの仕事があるんだ。

先ずは 発色 について。


 わかってると思うんだけど・・・

 Al : アルミ
 Cu : 銅
 Cr : クロム
 Fe : 鉄






写真の試し布の 周りのオレンジ色の部分が 蘇芳 の染液そのままの色。
それぞれの媒染材で 発色 が全然違うでしょ。 
(特に 蘇芳 は媒染材でかなり発色の仕方が違うので 説明する時に便利なんだ)

これは、蘇芳の染料がいろんな色を発色する 可能性 を持ってて
媒染材によって その可能性 を引き出されてるといった感じかな。
例えて言えば、TVの受像機では 色んな番組を見られる 可能性 を持ってて、1chにすればNHKを
4chにすれば日テレを、6chにすればTBSを・・・見られるよね。
そんな感じで 媒染で発色 するというのは、それぞれの局にチューニングしてやるようなモンなんだ。

鉄媒染 ・ クロム媒染 について 関連記事


次に 定着 について。
これは  のような 動物繊維 についてだけなんだけど・・・

タンニン系の染料 (黄色系の染料) は、その染料自体で繊維に染まり付く性質を持っているんだけど
他の ヘマチン とか 蘇芳 とか・・・は、そのままでは繊維に染まり付かないんだ。
そこで 媒染材 によって繊維に 定着 させてやるんだ。
動物性の繊維 っていうのは、金属分を吸着する部分 を持ってて
そこの部分に金属と結びついた染料が定着するんだ。 (媒染材が仲立ちとなって染まるんだね)

・・・では、ここで “ジャ 先に染料と媒染材を混ぜてから染りゃいいジャン!” って考えが浮かぶよね。
そう思いついただけでもス・ゴ・イ!  これは “顔料化” するといって
イメージとしてなんだけど、こう考えて。   媒染材に手が2本あると考えて・・・
先に染料と混ぜてしまうと、その2本の手で染料と握手してしまい、繊維とは もう握手しなくなるんだ。
だけど、それぞれで染てやると、染料とも繊維とも片手づつが握手して 上手く染まりつくんだ。
だから 染料同士・媒染材同士 を混ぜても良いけど 染料と媒染材 を混ぜては ダメ!

綿 とかに染める場合は
それ自体で染まり付く性質のある染料を使うか、先にタンニンとかタンパクを生地に吸収させてやらないと
一見染まってるように見えても、洗ってるうちに 色がどんどん落ちてしまう から気をつけて。
まぁ、これは “染まってる” とは言わねぇけど・・・

“媒染” については、こんな感じ。  わかって貰えたかなぁ・・・            じゃ!



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2007年06月02日 Posted by 染師 麗 at 00:00天然染料

黒染め (三度黒)

今回は、天然染料による “黒染め” ですが・・・     難しいです!

化学染料の “黒” は、真っ黒ではなく 幾らかの “色味” を持っています。
(特に薄めて使用する時には それが顕著に出ます)
天然染料による “三度黒” は、巧く染まれば 色味の無い綺麗な “黒” になります。
ただ、染屋さん とは別に “黒染屋さん” が在るくらいで “本当の黒” は難しいです。


・・・前置きはこれ位にして、始めてみましょう。


先ず “三度黒” で使用する 染料その他は ヘマチン ・ 鉄 ・ 重クロム酸カリ の3種です。

“ヘマチン” は 染料屋さんに チップ や パウダーで販売されてます。
“鉄” は 三度黒の場合に使用するのは “ノアールナフトール” という加工?された鉄が販売されてます。
 (木酢酸鉄とか他の鉄でも出来ると思いますが・・・)
“重クロム酸カリ” は 劇薬なので 印鑑を持って薬屋さんに買いに行きます。


この3種が揃ったら 次に “濃度” を確認できる “ボーメー計” という器機が必要になります。

  ← これが ボーメー計

  染料屋さんで売ってます。



  ← それを 染料や媒染剤に入れて計ります。
  (比重なんでしょうかネェ・・・)

  温度は その時の常温で。




さて、その値ですが・・・

ヘマチン : 春 1.8~2.0  夏 1.0~1.5  冬 2.0~2.3  中間 1.5~1.8
ノアールナフトール : 春 1.6~1.8  夏 0.8~1.3  冬 1.8~2.0  中間 1.3~1.6
重クロム酸カリ : 通年 3.0~3.2

    (春 3・4・5月 : 夏 7・8・9月 : 冬 11・12・1・2月 : 中間 6・10月)

上記の値を目安にして下さい。


  ヘマチンは染料ですのであらかじめ煮出して
  染料を抽出しておきます。

  その主成分は 血液に含まれるヘモグロビンのようで
  ← しばらく経つとこの様に カビ が出ますが
  カビを除けて使えば問題無いです。
  (黒染屋さんでもそのように使用してるそうです)

  ← それを雑巾等で濾して使用します。

  あらかじめ 少し濃い目に染料を作っておくと
  水を加えて濃度の調整が出来るので便利です。

  ノアールナフトールは濃縮された原液で販売されてるので
  その都度 水で薄めて使います。

重クロム酸カリは通年 3.0~3.2 という値なので、その濃度の液を作っておくと便利です。



染め方は、特にこれといった注意はありませんので ムラ無く平らに 引き染 しましょう。

  ← ヘマチン を引いて

  黒染めの場合 全般 天日の下で乾かすのが
  良いそうですが、小品ならともかく 帯・着物では
  ムラが出てしますので、出来るだけ早く乾くよう
  いろいろな工夫をしましょう。


  ← ノアールナフトール を引いて
  (かなり黒っぽくなりますが、未だ濃紺)

  夏場は それ程関係ありませんが
  冬場は 乾燥に時間が掛かるので、オレはあらかじめ
  仕事場を暖め(暑い位に) それから引き染します。


  ← 重クロム酸カリ を引いて

  それと先に引いた染料を完全にを乾かしてから
  次の工程に入った方が良いようです。
  (他の引き染も同じですが特に)
  だからオレは “黒” に関しては 一日に一回だけで
  染てます。  (急いでる時には焦れますが我慢して)


三度黒 の場合 “蒸し” はしません。  (蒸しをすると生地が硬くなったり黒が赤くなったりしてしまいます)

黒に染めてから 蒸しをしなければならない様な場合は 重クロム酸カリの値を 2.0~2.5 位の
薄めにして 使用すると調子良いようです。

重クロム酸カリが乾いたら 蝋取り等をして 蒸しはせずに そのまま “水元” へ
良く染まっていると ほとんど色は出ません。  (若干カリの黄っぽい色が出るくらいです)



  その他では 重クロム酸カリを染めると
  ← 左の刷毛の様に 刷毛の毛が すごく痛みます。

  ・・・ので、オレは 重クロム酸カリ は古くなった刷毛を
  重クロム酸カリ専用にして使用しています。


なかなか難しいですが、“綺麗な黒” が染まった時は とっても し・れ・う~! ですので
挑戦してみる価値は充分にあると思います。               健闘を祈る!



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2007年06月03日 Posted by 染師 麗 at 00:00天然染料